普段、わたしたちが何気なく通りすぎている、数多くのお店。その中に、気にはなるけど、一人で入るにはちょっと勇気がいる。そんなお店は、ありませんか?この連載では、誰もが知っている“話題の人気店”とは一線を画した、地元民でも知る人ぞ知る、隠れた名店をご紹介。さぁ、勇気を出して。あなたも一緒に、その扉を、開けてみましょう。
ちょっと秘密にしたい、乙女心をくすぐる店
今回ご紹介するのは、洲本の商店街に立ち並ぶ、レトロ小道の一角にありました。洲本中央公民館側の、一番端っこ。「洲本レトロこみち」の看板が目印です。
元々は魚屋さんだった古民家を改装し、1階をお店として営業しています。その名も「陶koubou m」。店名からもなんとなく想像はつきますが、外からは並べられた色とりどりの器たちが見えます。
この連載初の引き戸です!!ガラス張りなのですでにお店の中の様子も窺えるのですが、なるべく見ない、見ない…(笑)いざ、扉開けてみました!!
まず目に飛び込んでくるのは、大きくてカラフルなたくさんのお皿!淡い色味が、なんとも絶妙で可愛い!!
打って変って、店内奥にあるこちらの器やカップは、一気に和テイストです。
食器だけじゃなくて、こんな遊び心満載の、素敵なブローチまで!
そう、ここは磁器で作った陶芸作品をメインに取り扱う、陶器店兼工房。乙女心をくすぐる、しなやかなフォルムと、柔らかいカラーが印象的な作品が、ズラリと並びます。
また店内には、器を優しく包み込むように、素敵なお花や、観葉植物がたくさん飾られています。まるで器のぬくもりを引き立てるように、心地良い静かな時間が流れ、なんだか秘密にしたくなるお店です。
割れない器
陶芸と聞くと、土から作る「陶器」をイメージする方が多いかと思いますが、「陶koubou m」では、石から作られる「磁器」の商品が多く並びます。もちろん中には陶器のものや、土と石を混ぜて作る「半磁器」の商品も扱っています。
「陶器」と「磁器」、見た目の違いは一目瞭然。一般的によく目にしているのは、表面がザラザラとして、マットな質感の、写真のような「陶器」。
一方「磁器」は、写真のように表面がツルツルとしたもの。もちろん、コーティング剤によってはマットな質感のものもありますが、石の方がキメも細かく、落としても簡単には割れません。
他にも、電子レンジや食洗機にかけることもできたりと、陶器よりも少しだけ、扱いやすいのがメリットです。
「基本的に、食器は女性が使うものだと思っています。私自身もそうですが、やっぱり使い勝手の良いモノの方がいい。それにお気に入りの食器が欠けてしまったりすると、結構ショックなんですよね。(笑)だから簡単に割れないものが良いなと思って、磁器の商品を作るようになりました。」
妥協しないモノ作り
「陶koubou m」は、2017年7月にオープンしました。店主の石井さんが陶芸に目覚めたのは、なんと短大卒業後に留学をしていた、イタリアでのこと。会社員として仕事も始め、計11年間という長い月日をイタリアで過ごしていた石井さんは、帰国する少し前、とあるミラノ人の陶芸家さんの個展で、運命的な作品との出会いを果たします。
「たまたま前を通りかかったとき、そこに飾られていた一枚の大きな陶板が目に入ったんです。まるで絵画のような作品で、凄く衝撃を受けました。」
一気に陶芸への興味が沸いた石井さんは、その陶芸家さんからの、「陶芸は日本の技術がイチバン!やるなら日本でやりなさい」とのアドバイスを元に、帰国後は愛媛の焼き物の町「砥部」へと向かい、窯業訓練校で、本格的に磁器を学び始めます。
そして縁あっていまから5年半前、旦那さまと淡路島での生活を開始。最初は南あわじを拠点に活動していた石井さんですが、焼き物は、時間との勝負。
「何度も乾燥の具合を見に行かなければいけないんですけど、そのときは工房と自宅が離れていたので、往復が本当に大変で。いまは2階が住居になっているので、夜中だろうとすぐに見に来れるので、その点はすごく楽になりました。」
淡路島は多くの陶芸家さんが集う、陶芸の島。温暖な気候は、土も扱いやすく、また乾きやすいことから、陶芸をするには好条件なんだとか。
「それに淡路島って、創作意欲が掻き立てられる場所だと思うんですよね。大阪に居たころは、なんだか常に目まぐるしいし、息苦しさがありました。」
なにより、移住支援にも手厚い淡路島は、起業家の移住者にとって、凄く住み良い島なのかもしれません。
淡路島の観光スポットでもあるレトロ小道にお店を構える「陶koubou m」は、連日、島外のお客様で賑わいます。
「陶芸家さんて、集中力も問われる仕事なので、少しへんぴなところに拠点を構える方が多かったりするんですけど、その分、認知してもらえるように、それなりの発信力も必要なんですよね。私自身は、そんなに発信が得意な方ではないので、こういう観光地でお店をさせてもらえてることに、感謝しています。」
20代~40代の女性のお客様が多く、ふらっと入ってきて石井さんの作風を気に入り、何度も来られるリピーターのお客様も多いんだとか。
それは石井さんの、とことん女性目線で追求した「乙女心を掴む商品」が、人気を集めている理由なのかもしれません。
「あくまで食べ物が主役なので、できるだけシンプルで楽しくなるような彩りと、長持ちするものを作るよう心がけています。」
販売する商品は全て、一度石井さん自身も使ってみて、その使い心地をチェックしているんだそう。
「陶koubou m」では、体験レッスンも随時開催。
「わたしが作る商品を好きって言ってくれる人をたくさん見つけていきたいです。そしていつか、勝負出来るモノが見つかったら、大阪や神戸あたりで、個展を開きたいですね。そのためにこれからも日々、勉強です。」
扉を開けてみたら…
とことん「好き」を追求した、妥協知らずの徹底したモノ作りにかける思いがありました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
陶koubou m
所在地/洲本市本町6-1-40
営業時間/金・土・日・月 AM11:00-PM16:00
TEL/090-3944-1866
Mail/std.m.ishishi1108@gmail.com
写真・記事:藤本沙紀